それでも、朝は来ます。
どんな夜を過ごしても、
目を閉じたままでも、
外は明るくなっている。
福岡での生活が始まってから、
私の精神状態は、
決して安定していませんでした。
理由ははっきりしています。
失ったものの大きさに、
心が追いついていなかった。
昨日と同じ一日を過ごしているはずなのに、
心の中では、
常に揺れていました。
何もしていないのに、
落ち着かない。
理由もなく、
胸の奥がざわつく。
集中しようとしても、
考えが途中で途切れる。
小さな音に、
過剰に反応してしまう。
自分でも、
「これはおかしいな」と思っていました。
でも、
どうすればいいのかは分からない。
病名をつけたいわけでもなく、
誰かに説明したいわけでもない。
ただ、
自分が自分のままでいられていない
その感覚だけが、
はっきりとありました。
子どもたちの前では、
できるだけ普通でいようとしました。
日常を壊さないこと。
それが、
父親としてできる最低限だと思っていたからです。
けれど、
一人になると、
気持ちは簡単に崩れました。
夜になると、
考えなくていいことまで、
次々と浮かんでくる。
何が悪かったのか。
どこで間違えたのか。
もう一度、やり直せるのか。
答えは出ないと分かっていても、
思考は止まらない。
そんな時、
なぜか、
実家のことを思い出すことが増えました。
松浦の旅館。
人の出入り。
朝の音。
台所の匂い。
特別な思い出ではありません。
ただ、
自分が説明されなくても存在できた場所。
子どもの頃、
理由もなく守られていた空間。
精神が不安定になるほど、
私は、
その感覚を探していたのかもしれません。
戻りたい、
というよりも、
思い出せる場所が必要だった。
「自分は、どこから来たのか」
それを、
無意識に確認しようとしていた。
この頃の私は、
まだ立ち直ろうとしていません。
前を向く準備も、
できていなかった。
ただ、
壊れきらないように、
自分の中に残っている
“原点”のようなものを
探していました。
そしてその先に、
避けてきた
実家の時間が、
再び浮かび上がってくることになります。