父が亡くなったあと、
旅館は、
母と叔父が中心となって切り盛りされるようになりました。
誰か一人が父の代わりになる、
という形ではありません。
役割を分け、
できることを持ち寄り、
日々を回す。
無理をしながらも、
家は続いていました。
一方で私は、
家とは少し距離のある場所にいました。
実は、
音楽は突然始めたものではありません。
ギターを手にしたのは、
中学生の頃です。
きっかけは、
従妹の姉さんからギターをもらってからです。
言葉を使わなくても、
気持ちを外に出せる。
うまく説明できない感情を、
そのまま鳴らせる。
私は高校生になり
バンドを組みました。
学校の友人と集まり、
音を合わせ、
下手なまま、
ただ夢中で弾く。
上手いかどうかより、
そこに居られることが大事でした。
旅館の家。
期待される立場。
町の視線。
そういったものから、
少しだけ離れられる場所が、
音の中にあった。
昭和はエレキギターとロックは不良と言われる時代で
旅館のバカ息子と言われてました。
現実と折り合いをつけながら、
でも、
ギターだけは手放さなかった。
そして、
父が亡くなり、
家の空気が変わり、
自分の立ち位置が分からなくなった時、
私は、
自然と音の方へ戻っていきました。
大学には通っていましたが、
気持ちは、
そこにありませんでした。
考えた末、
私は大学を辞めました。
そして、
バンドに没頭しました。
プロの音楽家を目指す、
という言葉を使えば、
少し大げさに聞こえるかもしれません。
でも、
その時の私は、
それしか選べなかった。
家を支える準備もできていない。
現実を背負う覚悟もない。
それなら、
自分が一番長く触れてきたものに、
一度、賭けてみようと思った。
音を出している間だけ、
頭が静かになる。
過去も、
未来も、
少し遠くに置ける。
母からはバンドを辞めて帰って来なさいと
散々言われましたが、私には聞く耳が全くなかったと思います。